「災害」という名の南北問題

 まずは鳥インフルエンザをめぐる、今のところ。


 ベトナム、タイ、インドネシアカンボジアで人への感染が確認され、死者も既に60人を超えた。アナン国連事務総長は各国に迅速な行動を求め、世銀は鳥インフルエンザが東アジア地域の経済に与える影響がSARSを上回ると警告した。感染への警戒はアジアだけの問題ではなく、欧米も対策に乗り出しつつある。ブッシュ大統領も71億ドルの対策費を予算化する方針を示した。


 実態としての感染問題はざっとこんな感じだが、バイストーリーとして目を引くニュースがふたつある。


 ひとつはブッシュ大統領が大規模な予算投入を表明したことで関連医薬メーカーの株が高騰、その結果元会長のラムズフェルド国防長官の所有株の価値が数億円単位で膨らんでいるという報道。
 抗ウイルス薬「タミフル」はスイスの製薬会社ロシュが独占的に生産している。そのタミフルを開発したのはギリアド・サイエンシズというカリフォルニアの企業で、今もタミフルに関する特許収入を得ている。ラムズフェルド国防長官は『97年から長官就任の01年1月まで会長を務め、米メディアによると、年初時点で500万〜2500万ドル(約6億〜30億円)相当の株式を保有している』という。

 もうひとつのニュースは、当事国のタイが治療薬の高騰から需要に対応できなくなりつつあり、同国の企業が自国での独自生産に乗り出すという方針を示したというもの。タイ国内では『タミフルは特許登録されていない』というのがタイ側の主張だが、特許の扱いをめぐり新しい形での南北対立の様相を呈している。


 鳥インフルエンザとは関係ないが、大地震の復旧のためにパキスタンムシャラフ大統領がF16の導入延期を決めたということがあった。二十数年の交渉の末ようやく入手のめどがついた戦闘機よりも、国難に取り組む姿勢が優先されなければならなかった。災害によって途上国が、災害それ自体の負担に加え、経済的、軍事的オプションを殺ぎ落とさせ、あっという間に消耗戦に陥る構図が見える。そして米国防長官の例をひくまでもなく、途上国の災害はときとして先進国に商機をもたらす。