村上春樹の告白と告発

自筆原稿流出、村上春樹さん「一種の盗品」と問題提起

 各紙そろって原稿横流しを告発というトーンで紹介していた。文藝春秋に掲載された当該の文章を読んでみた。

 「そう捨てたもんじゃないよね」と、無理矢理作り笑いをするような筆致でヤスケン安原顯という"伝説的"編集者の虚実の「虚」の意義を何とか拾い上げながら、愛憎半ばの、むしろ翻弄された部分を告白しつつ、生原稿の流出が生じるという、それを企図した安原のクラい部分へのやりきれなさを吐露する。

 指弾するだけなら、これほど言葉を尽くす必要はない。愛憎半ばする気持ちをここまで前段に披露する必要はない。編集者としての功績、評判が虚ろで不確かなものであるとしても、汲むところが少なくないことを、糾弾するでもなく擁護するでもなく、ブレのない評価に軟着陸させつつ問題提起しようとする。

 不謹慎ながら(不謹慎と言うのが適当か分からないけれど)ノンフィクションとしての村上の面白さはこういう粘性にあるのかなと思わずにいられなかった。